
小学校の高学年の生徒から中学生にかけて、膝下の骨の出っ張った部分の痛みを訴える学生がいます。とくにスポーツを行っている男子に多いようです。これは筋肉や腱よりも骨の成長が速いため、引き伸ばされたフトモモの前面の筋肉が膝下の骨の出っ張った部分を牽引して骨軟骨炎を起こしているのです。この病気はオスグッド・シュラッター病と呼ばれています。
目次
1.オスグッド・シュラッター病
オスグッド・シュラッター病はスイスの外科医であるカール・シュラッター(Carl Schlatter)とアメリカの整形外科医であるロバート・ベイリー・オスグッド(Robert Bayley Osgood)が別個に発表したため、オスグッド・シュラッター病(またはオスグッド・シュラッター症候群)と呼ばれています。
単にオスグッド病とも言われますが、成長が著しい時期の子供、とくに10才~15才の男子に多い慢性の疲労性障害です。
1-1.原因

大腿四頭筋と脛骨粗面(カパンディ 関節生理学 Ⅱ.下肢 原著第5版.医歯薬出版株式会社, 1997, p139)
成長期には骨が急速に成長しますが、筋肉や腱などの軟部組織は骨ほどの速さでは成長しないため、筋肉が引き延ばされて硬い身体となってしまいます。フトモモの前面にある大腿四頭筋はとくに硬くなります。
この大腿四頭筋は膝蓋骨(ヒザのお皿)を包んだのちに、膝蓋靭帯を介してスネの上部にある脛骨粗面部に付着します。大腿四頭筋が引き延ばされた状態で激しいスポーツを行うと、大腿四頭筋の大きな牽引力が脛骨粗面部に加わります。
成長期の脛骨粗面部には骨端核が存在していて、まだ脛骨(スネの骨)の本体とは癒合していません。そのため大腿四頭筋の大きな牽引力が膝蓋靭帯を介して骨端核に働き、その発育を阻害したり炎症を起こしたりします。
1-2.症状
スポーツを行うと膝蓋骨のすぐ下にある骨の隆起、つまり脛骨粗面の痛みが増加しますが、スポーツを中止して休息を取ると痛みが軽減します。
痛みはおもにスポーツによって発生します。とくにジャンプしたり、ダッシュを行ったり、ボールを蹴ったりする動作で起こりやすく、陸上競技、バドミントン、バレーボール、バスケットボールなどを行う生徒によく見られます。
脛骨粗面に疼痛および圧痛、熱感、腫脹、骨の隆起などが現れます。左右両側の脛骨粗面に現れることもあります。骨端核は男子は15~16才で癒合するのが一般的ですので、成長期を過ぎると症状は軽くなります。
1-3.治療
- 多くはスポーツを中止し、安静にすると痛みはおさまります。
- 脛骨粗面部をアイシングしたり、患部に冷湿布を貼ることも症状の改善に役立ちます。
- 大腿四頭筋のマッサージとストレッチの行うことも重要です。
- 鍼治療とストレッチの組み合わせも効果的です。
- オスグッド用のサポーターによって大腿四頭筋の牽引力が患部にかかりにくくすることも良い結果を生みます。
- 膝をサラシで固定する方法もあります。これはテーピングよりも効果があります。
- 病院では消炎鎮痛薬が処方されます。
- ひどい場合には骨片摘出術や骨穿孔術を行う場合もあります。
さらに見落とされている対処法を次の「誰も書かないオスグッド病の改善を妨げる要素とその対策」において述べたいと思います。
2.誰も書かないオスグッド病の改善を妨げる要素とその対策
2-1.距骨下関節の過回内
足の形は人によって違います。その足の形をいくつかに分類した場合に、足が地面に着くときや足で地面を蹴るときに大きく内側に倒れるタイプの足があることが分かります。この動きを距骨下関節の過回内と言います。
たとえば足の前半分の内側が上がったタイプの足は、着地した時に大きく内側に倒れます。足が内側に倒れ過ぎると、その上に載っている脛骨(スネの骨)が内側に大きく回転するとともに、膝が大きく内側に移動します。

足の変形が過回内(オーバープロネーション)を起こす。(Pod Mech vol.2. 株式会社インパクトトレーディング, 2006, p9)

カカトが内側に倒れると、スネや太モモが内側に回転する(SUPERfeet Training
Program Tech 3. 株式会社インパクトトレーディング, 2004, p8)(一部改変)
膝が大きく内側に移動すると骨盤の外側と膝蓋骨の距離が長くなり、大腿四頭筋が引っ張られます。その結果、脛骨粗面に働く牽引力が強くなり、症状が改善されにくくなります。
これを防ぐためには構造的に優れた靴の中に、機能的にすぐれた足底板を入れるしか方法がありません。またこの方法は症状が出ていない人には有効な予防法となります。
2-2.距骨下関節の過回内(その2)
男の子の中には骨盤が後ろに倒れている場合があります。こういう子どもは膝を前に出すときに、フトモモが外側に回転し、ガニ股傾向になるケースがあります。
この子どもに距骨下関節の過回内が起こると、スネは内側に回転し、フトモモは外側に回転するので、膝蓋骨の下で膝蓋靭帯が「綱引き」状態になります。その結果、脛骨粗面部が引っ張られて症状が出てきます。
対策は2-1とほぼ同じです。
2-3.フクラハギの硬さ
大腿骨の成長が速いために大腿四頭筋が引き伸ばされて硬くなるのと同時に、脛骨(スネの骨)の成長が速いために腓腹筋(フクラハギの筋肉)が引き伸ばされて硬くなることがあります。
フクラハギの筋肉が硬くなると足首が反りにくくなります。足首が反りにくくなると、足部はその縦アーチを潰して適応しようとします。縦アーチを潰すために、足部は内側に倒れます。すると足部の上に載っているスネの骨は内側に回転し、膝は内側に移動します。その結果、骨盤の外側と膝蓋骨の距離が長くなり、大腿四頭筋が引っ張られます。これも症状の改善を邪魔する条件となります。
この場合、もし足が内側に倒れるのを防ぐために足底板を使うと、緊張しているフクラハギの筋肉にますます張力が働くことになりますので、注意が必要です。つまりフクラハギの筋肉をマッサージとストレッチによって柔らかくするという施術が必要になるということになります。
2-4.フクラハギの硬さ(その2)
2-2と同様に骨盤が後ろに倒れている場合には膝を前に出すときに、フトモモが外側に回転し、ガニ股傾向になります。
フクラハギの筋肉が硬いことによって足の縦アーチが潰されるとスネは内側に回転し、フトモモは外側に回転するので、膝蓋骨の下の膝蓋靭帯が強く引っ張られることになります。その結果、脛骨粗面部に症状が出てきます。
この場合もフクラハギの筋肉のマッサージとストレッチが必要となります。
[注意]もし2-1及び2-2で述べた「距骨下関節の過回内」があり、かつ2-3及び2-4で述べたようにフクラハギの筋肉が硬い場合には、足底板を入れることとフクラハギの筋肉を柔らかくすることを並行して行わなければいけません。
2-5.強剛母趾または制限母趾
強剛母趾や制限母趾があって、足の親指を反らすときに痛みが出る場合には、親指に体重をかけるのを避けて小指側に体重を移動しようとします。すると地面を蹴る力が弱くなりますので、フクラハギやフトモモ(前面)、殿部(おしり)の筋肉に負担がかかります。その結果、大腿四頭筋に強い力が働き、脛骨粗面部が引っ張られて症状が出ることがあります。
足の親指を反らすときに痛みが出なくても、強剛母趾や制限母趾があると、距骨下関節の過回内が起こっているので、2-1や2-2で述べたように正常な人の場合よりも脛骨粗面部にストレスがかかるリスクは大きくなります。
対策としては、構造的にしっかりとした靴と機能的にすぐれた足底板を使う必要があります。
強剛母趾や制限母趾に関しては「親指が反らなくなり、蹴るときに痛みが出る強剛母趾の治し方」をご覧になってください。
3、関連する疾患
3-1.大腿四頭筋の筋筋膜性疼痛症候群
オスグッド・シュラッター病に関係するものに大腿四頭筋の筋筋膜性疼痛症候群があります。大腿四頭筋が使われ過ぎると筋筋膜性疼痛症候群を起こして痛みを発生します。その痛みの場所は下記のリンク先に書かれています(大腿四頭筋は大腿直筋、内側広筋、外側広筋、中間広筋の4つの部分からできています)。
大腿四頭筋の疼痛域
1)大腿直筋の疼痛域
2)内側広筋の疼痛域
3)外側広筋の疼痛域
4)中間広筋の疼痛域
上記の4つの内の最初の2つをご覧になってください。膝に痛みが出ることが描かれています。オスグッド・シュラッター病の中には、この筋筋膜性疼痛症候群による痛みが混在しているものがあります。また脛骨粗面に痛みがなくなり膝全体が痛い場合はオスグッド・シュラッター病が治癒し、筋筋膜性疼痛症候群が残っている場合もありうることです。
成長期に起こる大腿四頭筋の筋筋膜性疼痛症候群もオスグッド・シュラッター病とほぼ同じような原因で起こると考えられます。すなわち大腿骨の成長が大腿四頭筋の成長よりも速いため、筋肉が引っ張られて過剰に使われることによって起こります。
また足部の構造により足部が大きく内側に倒れやすい場合や、フクラハギの筋肉の緊張によって足の縦アーチが潰される場合、さらに強剛母趾や制限母趾がある場合には大腿四頭筋に大きな負荷がかかるため、筋筋膜性疼痛症候群を起こしやすくなります。
施術方法は大腿四頭筋に対するマッサージとストレッチ、フクラハギの筋肉に対するマッサージとストレッチ、構造的にすぐれた靴と足底板の使用ということになります。マッサージの代わりに鍼治療も効果があります。
3-2.オスグッド後遺症、大人のオスグッド・シュラッター病
大人にオスグッド・シュラッター病が起こるのは稀ですが、若いころにこの病気にかかったことがあったり、動きの激しいスポーツを繰り返して行ったりすると、大人になってもこの病気にかかることがあります。
大人のオスグッド・シュラッター病の特徴は、
- 両膝に起こることは少なく、多くは片膝にのみ起こります。
- 脛骨粗面に腫れが起こり、慢性的に痛みますが、それ以外の症状はあまりありません。
- 腫れが引くとその部分が出っ張った状態になっています。この出っ張りは残りますが、膝の機能には影響しません。
大人のオスグッド・シュラッター病に対する施術は
- まずは安静することです。スポーツなどは一時止めた方が良いです。
- 腫れたところに冷湿布を行います。
- フクラハギの筋肉および大腿四頭筋のマッサージとストレッチを行います。
- 構造的にすぐれた靴の中に、機能的にすぐれた足底板を入れます。
- 場合によってはサラシ固定、膝サポーター、ストラップなどを使います。
3-3.シンディング・ラーセン・ヨハンソン病
(改めて詳しく解説します)
- シンディング・ラーセン・ヨハンソン病は膝蓋骨(ヒザのお皿)の下端部に起こる骨軟骨炎で、オスグッド・シュラッター病とほぼ同じメカニズムで起こります。
- 膝蓋骨の下端部に圧痛や腫脹があります。
- 激しいスポーツを避け、6~8週間安静にしておくと症状はなくなります。
- 膝のサラシ固定、膝サポーター、膝ストラップなどで患部にかかるストレスを減らします。
- 靴と足底板の使用が症状を軽くします。
3-4.膝蓋靭帯炎(ジャンパー膝)
(改めて詳しく解説します)
- 膝蓋骨と脛骨粗面の間にある膝蓋靭帯に起こる障害で、オスグッド・シュラッター病とほぼ同じメカニズムで起こります。
- 膝蓋靭帯に微小な断裂や変性が起こり、局所に腫脹や熱感があります。
- 激しいスポーツは控える方が良いです。また運動後は患部のアイシングを行います。
- 膝のサラシ固定、膝サポーターなどで患部にかかるストレスを減少させます。
- 構造的に優れた靴と機能的に優れた靴の使用が症状を軽くし、改善のスピードを上げます。