靴を履く生活では裸足の生活よりも外反母趾になる人が増える

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靴は外反母趾の原因ではないとの記述がネット上でたまに見られます。また靴は外反母趾の二次的原因であって、一次的原因は足の横アーチに関与する靭帯の緩みであるとも書かれています。本当でしょうか。なおここで言う「靴」というのはハイヒールは含んではいません。比較的フラットな形のものを指します。

1.セントヘレナ島での外反母趾の調査

靴を履いて生活したときには、裸足で生活するときよりも外反母趾になりやすいのでしょうか。まずそこから見ていきましょう。

裸足生活の人々に外反母趾が存在することを示した2つの論文」で、裸足で生活する人の中にも外反母趾が存在することを述べた2つの論文を紹介しました。

その2つの論文のうちのひとつに、靴と外反母趾について興味深いことが書かれています。それは「部分的に靴を履いている地域における外反母趾の発症率」(注1)という論文です。

この論文は1965年頃のセントヘレナ島での外反母趾の調査結果を記録したものです。調査当時、ここには靴を履かない人々と履く人々がいましたが、裸足で生活する人のうち約2パーセントが外反母趾で、その男女差はなかったようです。

また靴を60年間以上履いた人々のうち、男性では約16パーセント、女性では約48パーセントが外反母趾になっていました。その靴というのは男女ともに一部の例外を除き、ほとんどが先のまるいフラットなものだったのです。

この論文の中に1852人の男性と1663人の女性を対象にした、靴を履いた年数と外反母趾がある人の割合の関係を示した表があります(男性は黒、女性は白の棒グラフで表現されています)。

靴を履いた年数と外反母趾の発生率

靴を履いた年数と外反母趾の発生率
(Shine I B: Incidence of Hallux Valgus in a Partially Shoe-wearing Community. Brit Med J7, 1965, 1, 1649)

この表を見ると男女ともに、靴を履いた年数が長いほど、外反母趾になる人の割合が増えていて、とくに女性の場合の増加の仕方が急激であることが分かります。

ここで皆様の中には「なぜ靴を履いた年数と外反母趾の人の割合の関係を調べたのか。年齢と外反母趾の人の割合の関係を調べたらよいではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

たしかに現代の日本のようにみんながほぼ同じ年齢で靴を履き始めるのであれば、「年齢と外反母趾の人の割合の関係」を調べたらよいです。

しかしこの当時のセントヘレナ島では靴を履き始める年齢が人によって違うわけです。

ですから履き始めてからどのくらいの年数が経過したのかということで分類しなければ、靴と外反母趾の正確な関係が分からないのです。

では、裸足で生活する場合よりも、靴を履いて生活する場合の方がはるかに多くの人が外反母趾になっているのはなぜなのでしょうか。その前に足病学で言われている外反母趾のメカニズムを見ていただきましょう。

(注1) Shine I B: Incidence of Hallux Valgus in a Partially Shoe-wearing Community. Brit Med J7, 1965, 1, 1648-50.

2.外反母趾のメカニズムから考えると・・・

足病学で言われている外反母趾の詳しいメカニズムに関しては、「足病学で説明されている、外反母趾発生の真のメカニズム」をお読みいただくとして、ここでは大雑把に説明します。

足病学では外反母趾の根本的な原因は足の変形(ねじれやゆがみ)にあるとしています。それほどねじれが大きくない足を持つ人、つまり正常な足を持つ人が、カカトから地面に足を下ろしたときに、足の骨にどのような動きが出るかを矢印で示すと、下の写真のようになります。

回内運動と足の骨の動き

回内運動と足の骨の動き

これを説明しますと、まずカカトの上にある骨が内側に移動します。これを回内運動かいないうんどうと言います。この運動とともにカカトの骨が少しだけ内側に倒れます。これらの動きによって地面からの衝撃を吸収するのです。

カカトが地面に着いた後に、足の裏全体が地面に着くのですが、その時に上の写真に書かれている第1中足骨ちゅうそっこつ内側楔状骨ないそくけつじょうこつは一緒になって動きます。どういう動きかというと、次のような動きです。

.床からの反発力により先端は上方に押し上げられ(実際には移動しません)、体重によって後端は下方に下げられる。
.床側の面が内側を向く。
.第2中足骨から離れる方向(内側)に動く。

では足にねじれがあるときはどうでしょうか。ここでは足の前半分の内側が後ろ半分に対して上がっている場合について説明します。

過回内

足の変形が過回内(オーバープロネーション)を起こす。

こういう足の構造を持つと、地面に足が着いたときに足全体が大きく内側に倒れてしまいます。すると足の骨にどのような動きが誘発されるかというと、次の写真のような動きが出てきます。

過回内と骨の異常な動き

過回内と骨の異常な動き

.正常な場合と比べて、先端が後端よりも相対的にさらに上がってしまう(つまり後端が先端よりも相対的にさらに下がってしまう)。
.正常な場合と比べて、床側の面がさらに内側を向く。
.正常な場合と比べて、第2中足骨からさらに離れる方向(内側)に動く。

するとどうなるでしょうか。次の写真をご覧になってください。

外反母趾発生時の骨の動き1

外反母趾発生時の骨の動き1

母指が地面に着いたときに、母指を曲げる筋肉は基節骨きせつこつを地面にしっかりと固定しています。この状態で中足骨がのような異常な動きをすると、母指のつけ根の関節(中足指節関節ちゅうそくしせつかんせつ)が亜脱臼を起こし、母指のつけ根は不安定になります。

すると地面を蹴るときに、下の写真のように母趾内転筋ぼしないてんきんという筋肉が基節骨を外側(Aの方向)に引っ張ってずらします。ここではこれ以上詳しくは説明しませんが、さらにBの方向やCの方向に骨が動かされるのです。

外反母趾発生時の骨の動き2

外反母趾発生時の骨の動き2

もし靴が外反母趾の発生に関係があるとすると、次の写真(再掲載)ののような(異常な)動きと関係があるのではないかと思いました。そしてネットを検索していると1つのすばらしい論文に出合いました。

過回内と骨の異常な動き

過回内と骨の異常な動き

3.靴がどういう影響を与えるのか

その論文とは次の「着靴が足趾関節運動およびウィンドラスメカニズムに及ぼす影響について」(注2)です。

このサイトを読んで下さっている方の多くは専門家ではなく、外反母趾で悩んでいる一般の方が多いと思いますので、あまり難しい言葉を使わずに説明します。

この論文では、「裸足」・「靴を履く」・「下駄を履く」という3つの違った状態で歩いた時に、足の母指のつけ根の関節の運動や、足の内側タテアーチの運動がどのように変化するかが計測されています。靴を履いて歩く場合は、裸足で歩く場合よりも、足の母指のつけ根の関節の運動の範囲や、足の内側タテアーチの運動の範囲が減少しました。もう少し分かりやすく言うと、靴を履いて歩くときには裸足で歩くときよりも、母指が反りにくくなり、土踏まずが高くなりにくかったということです。

また下駄げたを履いて歩くと靴を履いて歩くときよりも、足の母指のつけ根の関節の運動の範囲や、足の内側タテアーチの運動の範囲が改善する傾向が見られたのです。そしてこの実験結果とこれまでの報告から、足の障害の発生を予防するのに、下駄を履いて歩くことが有効であることが示されたのです。

さてここでは靴と外反母趾の関係を述べたいので、下駄のことには触れないでおきます。靴を履いて歩くと裸足で歩くよりも、母指が反りにくくなり、土踏まずが高くなりにくかったというのはどういう状態なのでしょうか。母指が反りやすく、土踏まずが高い状態とは何が違うのでしょうか。

下図は足病学のテキストに出ているものです。2つの足の様子が書かれていますが、左は母指がしっかりと反り、土踏まずが高くなっています。そして母指のつけ根がしっかりと地面に着いています。

また右は母指が反りにくく、土踏まずが左ほど高くはなっていません。そして母指のつけ根の関節で骨同士が衝突しています。こういう状態では母指のつけ根がしっかりと地面に着きにくくなります。

第1列の運動

第1列の運動
Pod Mech vol.2. 株式会社インパクトトレーディング, 2006, p19

たぶん靴を履くと、裸足の場合よりもこのような状態が作り出されやすいのではないかと思われます。
つまり靴は母指のつけ根の関節で骨同士を衝突させ、「第1中足骨+内側楔状骨ないそくけつじょうこつ」が地面から持ち上げられるのを抑制することによって、外反母趾を誘発しやすくしているのであろうということが考えられます。
もしかしたら、「第1中足骨+内側楔状骨」が地面から持ち上げられるのを抑制しているのは、靴のアッパーの部分であるのかもしれません。

過回内と骨の異常な動き

過回内と骨の異常な動き

(注2) 谷川正哉・金井秀作・清水ミシェルアイズマン・島谷康司・田中聡・沖貞明・大塚彰(2007)「着靴が足趾関節運動およびウィンドラスメカニズムに及ぼす影響について」『形態・機能』, 5, (2), 75-80. [フルテキスト

4.足の横アーチに関与する靭帯はなぜ緩むのか

女性の場合は男性よりも靭帯が緩みやすい傾向があります。そしてこれはホルモンの影響であろうと思います。しかし女性でも外反母趾にならない人がいるし、男性でも外反母趾になる人がいますので、ホルモンが横アーチに関与する靭帯の緩みの直接的な原因とは考えられません。

横アーチに関与する靭帯が緩んで「開張足かいちょうそく」さらには「外反母趾」へと進みますが、その原因は何なのでしょうか。それはすでに書きましたが、足病学では足の捻じれからくる、カカトの倒れとされています。これによって第1中足骨と第2中足骨の間が広げられ、結果的に足全体が横に広がります。すると骨と骨の間に張っている靭帯がまず引き伸ばされます。

筋肉は靭帯よりも伸縮性がありますから、靭帯ほど早期にはダメージを受けませんが、通常以上に引き伸ばされた状態が続くと弱ってくる可能性もあります。

横アーチの弛み

横アーチの弛み

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