17.ハイヒールはなぜ足に悪いのか(7つのリスク)
ハイヒールは足にとっては下記に述べる理由から、あまりよい履物とはいえません。しかしそれが分かっていても、実際には仕事上使用せざるを得ない環境にいる方がたくさんいらっしゃいます。たとえ痛みがなくても安心できないことを理解した上で履くべきだと思います。選ぶときには良いシューフィッターのアドバイスを受けながら選ぶことが肝要です。下記に述べたことはそれぞれがすべての人に当てはまるわけではありませんが、程度の差はあれ、誰でもいくつかは当てはまることがあると思います。
(1)足の「あおり」ができなくなる。
私たちが歩くとき、どのように足裏に体重をかけるかというと、踵(かかと)から足の外縁を通って第5指の付け根「小趾球(しょうしきゅう)」、さらに母趾の付け根「母趾球(ぼしきゅう)」から親指の先というふうに行ないます。これを「あおり歩き」といいます。この「あおり歩き」を提唱されたのは京都大学霊長類研究所の初代所長をされた故近藤四郎先生だと思います。
ところがハイヒールを履いて歩くと踵(かかと)の次に、母趾の付け根と第5指の付け根がほぼ同時に着地するため、足の「あおり」ができなくなります。これはハイヒールの踵の接地面積が小さいため、「あおり」を行なうとひっくり返ってしまうからです。
母趾の付け根と第5指の付け根がほぼ同時に着地すると、COP(Center of pressure、足圧中心)が第2、第3中足骨頭(ちゅうそっこっとう)付近を通るため、横アーチを支える
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| Ad.H:母趾内転筋(横頭) |
| (カパンディ 関節生理学 U.下肢 原著第5版.医歯薬出版株式会社,1997,p227) |
この靭帯を保護しようと働いていた母趾内転筋横頭(ぼしないてんきんおうとう)にも絶えず刺激が加わりますので、この筋肉にトリガーポイントが形成されて足指の付け根に痛みが出たり、この筋肉そのものが硬くなったりします(そのメカニズムはこちら)。硬くなった筋肉は母趾を外側に引っ張ります。
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| A:母趾内転筋のトリガーポイント(X印)と関連痛パターン。真横に走っているのが母趾内転筋横頭で、斜めに走っているのが母趾内転筋斜頭。 B:短母指屈筋のトリガーポイント(X印)と関連痛パターン。 |
| (ジャネット・G・トラベル&デービッド・G・サイモンズ,トリガーポイント・マニュアル-筋膜痛と機能障害 W,エンタプライズ株式会社,1997,P.179) |
以上述べた母趾内転筋横頭が伸ばされるのは、比較的横幅にまだゆとりのあるハイヒールあるいは柔らかい素材でできたハイヒールの場合に起きやすいことです。逆に横幅にゆとりがないあるいは硬い素材の場合には次のようなことが起こると考えられます。
(2)筋肉が短縮される。
横幅にゆとりがない場合は母趾内転筋横頭(ぼしないてんきんおうとう)が絶えず短縮した状態に置かれます。この状態から筋肉が収縮するとやはりトリガーポイントが形成されやすくなります。筋肉のトリガーポイントは(1)で述べたように伸張されたときだけではなく、短縮したときにも形成されやすくなるのです。
この筋肉が短縮した状態からトリガーポイントが形成されても、(1)と同様に足指の付け根に痛みが出ることがあります。
また靴のつま先の部分がきつい場合には、母趾内転筋横頭だけではなく、その他の深層の筋肉や浅層の筋肉にも負担が過剰にかかり、それらの筋肉にトリガーポイントが形成されます。
そのなかでも母趾内転筋斜頭(ぼしないてんきんしゃとう)と短母趾屈筋(たんぼしくっきん)は外反母趾と深いかかわりがあります。母趾内転筋斜頭のトリガーポイントは足指の付け根に痛みを生じます。また短母趾屈筋のトリガーポイントは母趾球部の足底面と内側面に痛みを生じ、さらに母指全体と第2指まで痛みを及ぼすこともあります(上図参照)。
外反母趾になった場合、母趾球部の内側に滑液包炎(かつえきほうえん)を起こし、赤く腫れ上がる場合がありますが、これはバニオンと呼ばれています。バニオンは靴の内面と皮膚との摩擦によって起こり、痛みを生じる場合があるのですが、短母趾屈筋にトリガーポイントができた場合の痛みとバニオンの痛みとは非常に区別がつきにくい傾向があります。
またこれらの筋肉が短縮され続けると筋肉はその状態が正常だと認識し、縮んで硬い状態になります。そして靴を脱いで歩いたときに硬い筋肉が損傷を受けてさらに硬くなります(そのメカニズムはこちら)。硬くなった筋肉は母趾を外側に引っ張ります。
(3)ふくらはぎとすねの筋肉が弱くなる。
ハイヒールを履くとつま先立ちの状態になります。するとふくらはぎにある腓腹筋(ひふくきん)は短縮した状態になり、すねにある前脛骨筋(ぜんけいこつきん)は伸張された状態になります。
筋肉の収縮のメカニズムはハックスレーの「滑り込み説」として有名ですが、これは筋細胞内にある細いアクチンフィラメントの間に太いミオシンフィラメントが滑り込むというものです。
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| (ジャネット・G・トラベル&デービッド・G・サイモンズ,トリガーポイント・マニュアル-筋膜痛と機能障害 T,エンタプライズ株式会社,1992,P.34) |
過度に伸張された前脛骨筋(ぜんけいこつきん)の場合は、2つのフィラメントの間に重なりがないので、2つをつなぐ連結橋(れんけつきょう)をあまり作れません。また過度に短縮した腓腹筋(ひふくきん)の場合は収縮してもすぐにミオシンフィラメントがZライン(ゼットライン)に当たってしまいます。どちらの場合も筋肉が出せる張力は減ってしまうのです。つまり足首を背屈したり(反らしたり)、底屈したり(下に曲げたり)する、これらの筋肉の力が小さくなるわけです。
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また背屈・底屈以外の運動、すなわち回内(かいない)・回外(かいがい)運動を行なわせる筋肉も弱る場合があります。回内(足の裏が外側を向く運動)を行なうのは短腓骨筋(たんひこつきん)と長腓骨筋(ちょうひこつきん)、回外(足の裏が内側を向く運動)を行なうのは前脛骨筋(ぜんけいこつきん)、後脛骨筋(こうけいこつきん)、長母指伸筋(ちょうぼししんきん)ですが、これらが短縮したり伸張されたりして動きが悪くなるのです。
こういう運動がしづらくなると足首の動くは範囲が狭まり、転倒しやすいというような障害も現れることがあります。高齢になって転倒しやすいのは、足首の運動範囲が小さくなっているのが原因です。当院の患者さんにも、ハイヒールを習慣的に履いて転びやすいという症状を訴える人がよくいます。
(4)縦アーチが下がる。
腓腹筋(ひふくきん)の筋力が減ってしまうことを述べましたが、同時にこの筋肉が硬くなります(そのメカニズムはこちら)。この筋肉が硬くなると、足首を十分に反らすことができなくなります。すると裸足またはローヒールで地面を蹴るときに足首を反らせない分、縦アーチを下げることで代償(だいしょう)します。
(5)浮き指になる。
すねにある前脛骨筋(ぜんけいこつきん)が弱くなると、この筋肉の足首を反らす力が減少するため、長指伸筋(ちょうししんきん)、さらには長母指伸筋(ちょうぼししんきん)が前脛骨筋の補助を行ないます。またふくらはぎにある腓腹筋(ひふくきん)が弱くなると、同時に足首が硬くなって反りにくくなります。この場合も長指伸筋や長母指伸筋が前脛骨筋の補助を行ないます。
ところが長趾伸筋や長母趾伸筋は足関節を反らすだけではなく、中足指節関節(ちゅうそくしせつかんせつ)で足指を反らす作用があります。そのため指が地面から浮いてしまいます。
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| EHL:長趾伸筋、TA:前脛骨筋 |
| (カパンディ 関節生理学 U.下肢 原著第5版.医歯薬出版株式会社,1997,p102) |
(6)
浮き指のなかでもハンマートゥとクロウトゥでは中足指節関節(ちゅうそくしせつかんせつ)にある脂肪体が前方に移動してしまうため、関節部の骨が薄い皮膚と接してしまって体重がかかったときに痛みが出ることがあります。またそこにタコや魚の目ができて、痛みの原因になっていることもあります。
また短指屈筋(たんしくっきん)や母指内転筋(ぼしないてんきん)のトリガーポイントからきた痛みが中足骨骨頭部に出ることがあります(母指内転筋のトリガーポイントは最上図を参照)。
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| A:小指外転筋のトリガーポイント(X印)と関連痛パターン。B:短指屈筋のトリガーポイント(X印)と関連痛パターン。 |
| (ジャネット・G・トラベル&デービッド・G・サイモンズ,トリガーポイント・マニュアル-筋膜痛と機能障害 W,エンタプライズ株式会社,1997,P.161) |
短指屈筋は縦アーチが過剰に伸ばされたときや足指に運動制限があるときにトリガーポイントを形成します。これらの筋肉のトリガーポイントから生じた痛みは、脂肪体前方移動による痛みと区別をつけるのが難しい場合があります。
脂肪体前方移動よる痛みだと判断されて、アーチサポートなどを入れたり、中足骨骨頭部にクッション性のものを置いたりしてもさっぱり痛みが取り除けないことがあります。こういう場合はトリガーポイントからきた痛みである可能性が大きく、トリガーポイント治療を受けると治ってしまうことがよくあります。
(7)指背・指端の胼胝(たこ)
「浮き指の人が足の指を使おうとするのは逆効果」で述べましたが、靴底の傾斜が大きくなると骨間筋(こっかんきん)の腱が中足指節関節(ちゅうそくしせつかんせつ、第3関節)の軸の上を通るようになります。
さらにフィッティングが悪いと下図のように中足指節関節で基節(きせつ)が反ってしまい、ますます骨間筋の腱が第3関節の軸の上を走るようになります。この状態で足指に力を入れるとどうなるでしょうか。
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| (カパンディ 関節生理学 U.下肢 原著第5版.医歯薬出版株式会社,1997,p239)(一部改変) |
本来骨間筋は中足指節関節において虫様筋(ちゅうようきん)とともに働いて基節骨(きせつこつ)を地面に安定化させ、中足骨頭(ちゅうそっこっとう)を基節骨に圧縮させます。
ところが骨間筋の腱が第3関節の軸の上を通ると、足指に力を入れるほど基節骨を中足骨に対して反る方向に曲げてしますのです。足指はクロウトゥと呼ばれる状態になり、指背や指端にタコが形成されます。
[なぜ筋肉が硬くなるのか]
筋肉が慢性的に過剰に伸ばされたり、縮められたりすると筋肉に微小な損傷が発生します。すると筋肉の筋鞘(きんしょう、筋細胞膜)や筋小胞体(きんしょうほうたい)が破壊されます。筋小胞体の中にはカルシウムイオンが蓄えられていますが、これが筋小胞体の外に放出されます。
このカルシウムイオンがアクチンフィラメントにくっついて、太いミオシンフィラメントが細いアクチンフィラメントの間に滑り込んで筋肉は収縮します。つまり活動電位(かつどうでんい)がない状態、言いかえると神経からの指令がない状態で筋肉が収縮するわけです。
この状態が続くと毛細血管が圧迫され続けて、循環障害が起こります。そして毛細血管が十分な酸素を供給できなくなります。するとミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化が行なえなくなり、エネルギー運ぶATP(アデノシシン三リン酸)が生産できなくなります。
ATPが不足するためカルシウムイオンを筋小胞体の中に入れるカルシウムポンプが働きません。ますますカルシウムイオンの濃度が上がり、筋収縮が続くという悪循環に陥ります。
この状態が繰り返されるとミオシンフィラメントがアクチンフィラメントの間に滑り込んだ状態が続き、筋節(きんせつ)は短くなって筋肉は柔軟性を失いどんどん硬くなります。








