
外反母趾の痛み、すなわち足の親指の付け根の内側の痛みはどうして起こるのだろうか。
これには主に2つのパターンがあるようである。
ひとつは圧迫される痛み、もうひとつは擦れる痛みである。
この2つの痛みのパターンはそれぞれの足の構造の違いからくる。
外反母趾を起こしやすい代表的な2つの足の構造を例に挙げて説明しよう。
そしてさらにそれらの痛みの取り除くベストな方法について解説したい。
目次
1.外反母趾の痛みはどうして起こるのか
ひとつは足の前半分の内側が上がったタイプの足で、
もうひとつは足の前半分の外側が上がったタイプの足である。

足のねじれの例 足の前半分の内側が上がっている足(左)と外側が上がっている足(右) (Pod Mech vol.2. 株式会社インパクトトレーディング, 2006, p8, 11)
これらは患者さんにうつ伏せにしてなってもらい、
足首から先をベッドから出してもらった状態で観察するとよく分かる。

こうやって足の変形(ねじれ・ゆがみ)を見ます。
1-1.圧迫される痛み
足の前半分の内側が上がったタイプの足は歩くとき
カカトが地面に着いたあとに、小指の付け根が地面に着き、
そののちに大きく内側に倒れる。

足の変形が過回内(オーバープロネーション)を起こす。
なぜならば、そうしないことには足裏全体が地面に着かないからだ。
このときに第1中足骨(ちゅうそっこつ)は3つの方向に大きく動かされる。

カカトが倒れるとその動きは足先の方に伝わる。
正常な構造の足でも、第1中足骨はこれらの方向に動かされるのだが、
足全体が大きく内側に倒れると、これら3つの方向への動き(距離とスピード)も大きくなるのである。
別の方向から足を見てみよう。
第1中足骨は⑥の方向に(もちろん、⑤と④の方向にも)大きく動かされるのであるが、
このとき親指の骨(基節骨、きせつこつ)は地面にしっかりと固定されている。
そのため第1中足骨と親指の骨の間が大きくズレるのである。
つまり亜脱臼(あだっきゅう)を起こすのだ。

外反母趾発生時の骨の動き1
これが繰り返されると、親指の付け根は「く」の字に曲がってくる。
さらに筋肉のアンバランスが起こり、さらに曲がり方はひどくなる。
曲がると親指の付け根はクツの内側で絶えず圧迫を受ける。
クツに固定された皮膚と骨の間にある滑液包(かつえきほう)は炎症を起こし、痛みが出てくるのだ。
ただこの痛みはそれほど強い痛みではない。
これが圧迫されて生じる痛みのメカニズムであるが、擦れて生じる痛みはもっと激しい。
1-2.擦れる痛み
足の前半分の外側が上がったタイプの足は歩くときに
通常とは違って、小指の付け根よりも親指の付け根が先に地面に着く。
そのあとに足全体が外側に倒れて、小指の付け根も足裏全体も地面に着くのである。
しかしこれは足首が捻挫する方向の動きであり、非常に不安定な状態である。
次に地面を蹴るためにカカトが持ち上げられ、足の指に体重が載るのであるが、
この不安定な状態を安定化させるために、急速に内側に足を倒すのである。

足の前半分の外側が上がった足は強い痛みを出すことがある。
すると親指の付け根の骨、つまり第1中足骨の先端は大きく回転する。
このときにクツに固定された皮膚と骨の間にある滑液包(かつえきほう)は擦れて炎症を起こし、
激しい痛みを出すのである。
1-3.強剛母趾は外反母趾の痛みとは違う
もうひとつ外反母趾に似たものに、強剛母趾(きょうごうぼし)というものがある。
強剛母趾は親指の付け根の関節が動きにくくなり、ひどくなると全く動かなくなる。

強剛母趾は親指の付け根全体が痛む。
強剛母趾は外反母趾とは違って、親指の付け根全体に痛みが出るのである。
この強剛母趾の痛みに対する対策は「親指の付け根が反らなくなり、蹴るときに痛みが出る強剛母趾の治し方」で説明することにする。
2.幅広のクツが生む悲劇
外反母趾の痛み、つまり圧迫される痛みも擦れる痛みも
患者さんにとってはとても辛いものである。
まず患者さんがすることは幅広の大きなクツを履くことである。
あなたもそれを行なったかもしれない。
大きなクツを履くとどうなるか。
クツ紐をしっかりと結べば、
一時的には親指の付け根の内側がクツに当たりにくくなって痛みが緩和することもある。
しかし大きくて緩い靴は足を支える力が弱いため、
足が内側に倒れるのを防ぐことができない。
したがって足の横アーチが広がり、外反母趾がひどくなるのである。
そして足がクツの先に押し込まれることによって、
親指の付け根の内側がさらにクツの内側に当たるようになるので、
症状は一層ひどくなるのだ。
3.痛みを改善する中敷き
痛みを改善する目的で、「中敷き」と称するものはたくさん販売されている。
「中敷き」ではなくて「インソール」と呼ばれることもある。
「中敷き」や「インソール」と呼ばれているものは、
多くは既製品で、安いものは1000~2000円で売られている。
しかし痛みがひどい場合は既製品では対処しようがないことが多い。
そこでお勧めするのは「足底板」と呼ばれるものである。
3-1.体重をかけて作ってはいけない
足底板はその人の足に合わせて作るものであるが、これにも問題のあるものがある。
というのはほとんどの足底板は立った状態あるいは腰かけた状態で、
足をトリッシャムというものに押し付けて足型を採るのである。

足底板を作るのにトリッシャムは使わない方がよい。
すると足に圧力がかかるので、足がつぶれてしまい、
理想的な足の状態で足型を採ることができないケースが出てくる。
もちろんこの方法で足型を採っても、つぶれにくいタイプの足の場合は成功するのだが、
つぶれるタイプの足の場合は、足に合わない足底板が作られる場合がある。
ではどうしたらいいか。
高いイスに腰かけてもらって、足を宙ぶらりんにして足型を採るのである。
3-2.足底板作製の実際
実際にはどのように足底板を作るのかを説明しよう。モデルは某国立大学のサッカー部員の方にお願いした。

足底板作成用のイスに腰かけていただく。

この足底板は本体(左)とスタビライザー(右)を貼り合わせて作る。スタビライザーとは安定装置のことで、これの表面には接着剤がついている。

まずスタビライザーをオーブンに入れて高温で加熱します。接着剤は溶け、スタビライザーは少し柔らかくなる。スタビライザーの加熱が終ったら、オーブンから取り出す。

スタビライザーを素早く足底板本体にくっつける。スタビライザーは加熱されて熱いので、軍手を使っている。

スタビライザーを貼り合わせた足底板を足に装着する。モデルの方は熱くは感じませんのでご安心を。

空気を抜くための「管」をスネに装着する。

足の形をしたビニール袋を足全体に被せて、空気が入らないようにしっかりとベルトで固定する。

モデルの方の左足を両手で持って、右足でコンプレッサー(圧縮機)のスイッチを踏む。ビニール袋から空気が抜けていく。

モデルの方の左足を「ある状態」に留めて、空気を抜き続けてビニール袋の中を真空状態にする。

圧縮されたスタビライザーは、足が理想的な状態になるように成形された。

モデルの方の靴の大きさに合わせて、足底板の先端部をカットする。また足の動きが快適になるように、その他の細かい処置も行う。

完成した足底板をクツに装着する。

モデルの方にクツを履いていただいた。ピッタリだそうであるす。このあと外の道を軽く走っていただいた。

足底板はうまくできたようである。体重をかけないで作る足底板は、足を理想的な状態にもっとも近づける。この足底板作製の方法はノースウエストポディアトリックラボラトリーで開発されたものである。
3-3.あなたの足の動きを正常な状態に近づける2つの条件
地面を蹴るときに、トラブルを起こす多くの足は、全体的に内側に倒れ過ぎている。
逆に外側に倒れ過ぎてトラブルを起こす足もある。
いずれも「1.外反母趾の痛みはどうして起こるのか」でメカニズムをかんたんに説明した。
では蹴るときに理想的な足の状態を作り出すためにはどうしたらよいのであろうか。
それには、足底板を作るときに2つの条件を備えてやればいいのである。
3-3-1.距骨下関節を中間位にする
まずひとつ目は距骨下関節をまっすぐな状態にすることである。
距骨下関節がどこにあるかというと足関節のすぐ下である。
「まっすぐな状態」というのは、この関節を構成している2つの骨、
すなわち距骨と踵骨が右にも左にもずれない状態でかみ合っているということである。
この2つの骨がまっすぐな状態であると、スネから来た力が効率よく踵骨(カカトの骨)に伝わるのである。
3-3-2.横足根関節をロックする
足部(足首から先)は前足部と後足部に分けられるが、
この2つがつながっているところが横足根関節である。
この関節がしっかりとかみ合うと、後足部の力が効率よく前足部に伝わるのである。
この2つの条件を作り出すためには、
患者さんがイスに腰かけて足を宙ぶらりんにしてもらわなければならない。
そうしないと正確な足底板はできないのである。

体重をかけずに作る足底板
ベッドでのうつ伏せ状態でもできないことはない。
大事なのは体重をかけてはいけないことである。
4.クツ選びも重要
足底板を作ったら、構造的にすぐれたクツの中にそれを入れることである。
せっかく良い足底板を作っても、それを入れるクツが悪ければ、
足底板の機能を十分に発揮させることはできない。
クツの選び方に関しては「外反母趾の人生をバラ色にするシューズ選びの3つのポイント」で詳しく述べることにする。